印刷博物館へ行ってみた!

充実の常設展示

少し頑張れば自宅から自転車で行ける距離なので…日曜の昼過ぎに散歩がてら「印刷博物館」へ行ってみた。
正直「どうしても行きたい衝動に」駆られてではなく、ブログのネタ探しと、企画展示中の「世界のブックデザイン 2021-22」に少し惹かれてという曖昧な気持ちで。

文京区水道にあるトッパン小石川ビル。
凸版印刷の印刷工場跡地に建てられた21階建ての超高層ビルには、同社の創立100周年事業と地域への恩返しの趣旨を込めた、音楽ホールやレストラン、日本初の印刷博物館などの文化貢献コンテンツが盛り込まれています。

まぁ、入場料:一般400円だし・・・あまり期待しない方が良いだろう・・・というネガティブマインドがものの見事にひっくり返されてしまうほどに、貴重な展示内容と演出空間には心打たれてしまいました。

老若男女楽しめて~専門家も唸るほどの重要文化財も所蔵されており、印刷文化に関わる資料の蒐集や研究活動、活版印刷などを実際に体験するなどの実践・啓蒙活動を行っていて、印刷に携わる人々の神聖な場所のようにジワジワと感じてきました。

印刷の歴史を紐解いていくと、人類が言葉というコミュニケーションツールを持ったときから、それを広く拡散する方法論として「印刷」とは必然的に生み出されるべき文明・文化だったのだなと改めて思わされます。
現代のように世界がテレビ・ラジオ・インターネットで繫がる前の時代では、紙に印刷をして情報発信をすることがいかに大切な事だったのかが良く理解できます。

戦争という特異な時空間の中では、敵の士気をくじき、自国の国民世論を参戦に同意させ、自国軍隊の士気を昂揚させるという、政府・国のプロパガンダの道具にされたりと、暗い世相を背負わされたりもしたものですが😥

逆に戦後復興~高度成長時代にかけては、国民に勇気や希望や明るい未来を予感させる「華やかさ」の伝道師的な役回りを担うようになる一方で、「カストリ雑誌」と呼ばれた興味本位の雑誌に始まり、映画,ファッション,スポーツ雑誌~週刊誌→スキャンダラスな写真週刊誌ブームという猥雑で自堕落っぽい出版文化を裏支えする黒子でもありました😎

日曜日の午後の一番混み合いそうな時間帯に入場者はまばらで、かえってギャラリーアテンダント(案内係)さんの方が多いのではないかという絶好の鑑賞環境。もっとじっくり勉強したいところでしたが、メイン「世界のブックデザイン 2021-22」により時間を掛けたく、常設展示は足早で観て回り切り上げました。
近いうちに再訪したいと思わせる内容でしたので、皆さんも機会があれば遊びがてら行ってみてはどうでしょうか。

企画展示~世界のブックデザイン 2021-22

さて、いよいよメイン・・・各国のブックデザインコンテストで上位入選した本を、実際に手に取り・触れて・確かめられる、印刷屋にとっては「またとない」学びの企画展示。
残念ながら写真撮影は一切禁止、入り口では両手にゴム手袋装着を義務づけられるという、物々しい雰囲気でのスタート。でも、貴重な本を汚さないためとコロナ対策の観点から致し方ないところでしょうか。
三方の壁際とセンターテーブルに整然と展示されている本を一冊一冊手に取ると、その本に関する審査員の書評や作家・印刷所・製本所などの詳細情報が書かれたカードが現れて、高評価や上位入選したポイントが分かる仕組みになっています。本の装丁がセンスに溢れて見事だったり、本の設計やコンセプトが秀逸・奇抜であったり、それぞれが個性を十二分に発揮していて時間を忘れていつしか夢中になっている自分がそこにいました。

ただ、もの凄く意外だったのは本の評価基準が「文字の組み版の美しさ・流麗さ」により重点が置かれていて、本文に使われる文字の書体・レイアウトや余白とのバランスなどにフォーカスされているところでした。海外の本は特にそれが顕著ですが欧文組版の基本的な構造に疎い私は、もっぱら表紙・カバー・帯の素材や加工、それらにまつわる本文用紙、特殊製本について吸収すべき点がないかと夢中になっていました。「目から鱗」でインスパイアされた作品がいくつかあって、いつか機会があったらお客様に提案できるよう自分の中で煮詰めてみようかなと目論んでおります。
また、大いに驚いたことの一つとして、日本の「第55回造本装幀コンクール」で入選された本の中の4作品ほどで、弊社とお取引きさせていただいている「有限会社篠原紙工」さんが関わっていたことです。同じ江東区内で印刷・製本業を営み、最近では美大関連のお仕事で一緒に携わらせて頂いているというご縁ですが、情熱的に独自の手法で仕事に対して真摯に打ち込み、結果的に「人の心を動かす」作品にまで昇華させている「プロ集団」がごく身近にいたんだ…という改めての気付き。普段から「まごころ」を謳ってるアルプスPPSですが、「心を揺さぶるモノ作り」というもう一歩上のステージを目指さなければいけないな・・・との戒めになったような気がします。

この記事を書いた人

shinichiro haneda