印刷業界エレジー【写植組版の世界】

「写植」って??

レトロ回帰で、近年また少し脚光を浴びつつある活版印刷とは対照的に、ほとんど死語に近いポジションに追いやられてしまった「写真植字」

今から遡ること50年前には、活版・樹脂板印刷に取って代わる次代の「組版」の担い手として確固たる地位を築き、バラ色の未来が続いている…ハズでした。

実際、プリプレス分野での活字組版の領域でのシェアでは、急激に占有率を拡大していきデザイン~印刷工程での存在感、社会的地位は意外と【かなり】高い職種であったように感じます。

とはいっても、鉛の文字を一文字ずつ拾って組んでいく活版と作業的には大差なく、仕事が立て込むと「徹夜・徹夜・徹夜…」の日々が続いたものです。
でも・・・仕事のキツさに反比例して、妙な充実感があったんですよねぇ…

文字組版は、オペレーターの技術力や美意識が如実に顕われる、まさに「ザ・職人」の世界。意識の低い作業者の仕事は、間が抜けた読むに堪えない代物…意識レベルの高い職人仕事とは雲泥の差が出て、それが単価や指名率の格差として跳ね返ってくるシビアな世界でもありました。

「写研」という大手メーカーが主な書体を牛耳り、今でいうところの独禁法無頼なビジネス展開で高い文字盤や機械を買わされ続け、まさに搾取の構図ではありましたが「文字文化を下支えしているというプライド」で日々ハードワークに励んでいた記憶が甦ります。

写植の世界も手動機から電算化という技術革新を遂げていきますが、それを上回る勢いでmacによるDTPの大津波に呑み込まれてしまい、あっという間に中間プロセスとしての地位を完全に失ってしまいました。

文字組みが、誰でも簡単に低コストで出来るようになったことは喜ばしいことで、表現の多様性にも繋がって来ているのでしょう。でも、安直になったぶん、何か大切なものが失われてしまったような淋しさも感じます。

書体や文字種によって字間(字詰め)を調整し段落を組んでいく作業…
いかに美しく気高く「タイトル」や「コピー」や「文章」を見せ、訴求するかの「コダワリ」と「文化」だと感じます。
昔の人は「名刺」や「挨拶状」の文字組み版に、一方ならぬ美的センスを求める方が多かったなぁ。

日本語の「漢字」や「ひらがな」が持つ、「しなやかさ」と「優美さ」、書体との適正、バランス感覚など諸々の美学が高く評価される文化…

時代の変遷を体験してきた人間として、そういう価値観に、また再びスポットライトが当てられる時が来る事を切に願います。

メイン文字盤
メインの文字盤~サブと併せて1書体当たりの投資額は高かった…ガラス=壊れ物で割ったらおしまいの世界…
破損してしまったときの冷や汗は今でも忘れない(..;)

この記事を書いた人

shinichiro haneda